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高松高等裁判所 昭和25年(ネ)175号 判決 1951年5月19日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す被控訴人が別紙目録記載の農地につき昭和二十三年十二月二日附の買収令書によつてなした買収処分を取消す訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は控訴代理人において本件買収令書は昭和二十四年七月二日控訴人に交付されたと述べ被控訴代理人において本件買収令書による買収処分の取消を求むる訴は制度上許さるべきものでないとの本案前の被控訴人の主張は撤回する本件買収令書が昭和二十四年七月二日控訴人に交付されたことは争はないと述べた外いずれも原判決事実摘示と同一であるからここに之を引用する。

(立証省略)

理由

蕨岡村農地委員会が別紙目録記載の農地四筆につき自作農創設特別措置法第六条の二に基く買収計画を定めたこと、その後被控訴人が右農地につき昭和二十三年十二月二日附で買収令書を発行し之を控訴人に交付して買収処分をしたこと及び該買収令書が昭和二十四年七月二日控訴人に交付されたことは当事者間に争のないところである。

よつて本件行政処分が違法であるか否かについて判断する。

先づ控訴人の被控訴人の買収処分は手続上違法であるとの主張につき按するに成立に争のない甲第二号証、原審証人山崎種稲、同浦田高千穂、原審竝びに当審証人威能正吉(原審第一回)の各証言を綜合すれば蕨両村農地委員会が昭和二十三年十二月二日本件農地につき控訴人のため被控訴人に対し賃貸借契約解除の許可を上申しその結果により右買収計画に基く買収手続を進める旨の決定をしたこと然るにその後右村農地委員会は遂に右上申をせず買収手続のみを進めたことが認められるけれども前顕証人山崎種稲、同浦田高千穂、同威能正吉(原審第二回)原審証人岡本広光の各証言を綜合すれば右の如き事態になつたのは控訴人自ら被控訴人宛て解約許可申請書を提出しなかつた事情によることが認められるのみならずたとえ斯様な事情がないとしても農地の買収手続とその賃貸借契約解除の手続とは制度上別個のもので関聯するところがないから右村農地委員会が右の如き決定をしながらその後買収手続のみを一方的に進めたことは不当ではあるが之がため右買収手続が違法となるものとは謂ふことはできない。

次に控訴人の合意解約は適法且つ正当であるとの主張につき按ずるに、前顕証人威能正吉(原審第一回)原審竝びに当審証人池地徳馬の各証言により真正に成立したと認める甲第一号証、前顕証人威能正吉(原審第二回)の証言により真正に成立したと認める甲第四号証竝びに前顕証人威能正吉(原審第一、二回)原審証人田能稔の各証言及び原審における控訴本人(原告)の供述を綜合すれば控訴人と訴外池地徳馬との間に昭和二十二年二月頃賃貸借契約解除の合意が成立していることが認められ之に反する前顕証人池地徳馬同池地ふぢえの各証言は措信し難く他に右認定を覆すべき証拠はない。そして当時即ち昭和二十二年十二月二十六日公布の法律第二百四十号による改正前の農地調整法の下においては合意解除には被控訴人の許可は必要でなかつたものと解するを相当とすべく従つて前示賃貸借の合意解除は適法であつたものと謂ふべきであるが当事者間に争のない池地徳馬は約三十年前に本件農地を控訴人から賃借し爾来之を耕作し来つた事実に前顕証人池地徳馬、同威能正吉(原審第一、二回)の各証言を綜合して認められる控訴人の家族は七名でその所有農地の耕作面積は本件農地を含めて二町四反余であり居村では最上層部に位する農家であるのに反し右池地徳馬は小作人として従来不誠実な点もなくその家族は五名でその内四名が農耕に従事しその耕作面積は僅かに五反余に過ぎない事実及び前顕証人池地徳馬の証言によつて認められる。右徳馬は本件土地の小作料も毎年末支払い来り昭和二十一年度も之を支払つた事実を綜合して考えれば右解約は正当なものと謂ふことができない。

最後に控訴人の信義則悖反の主張につき按ずるに右池地徳馬が三十年以前より本件農地を控訴人から賃借していることは当事者間に争なくまた同人は小作料は毎年末之を支払い来り昭和二十一年度の小作料も支払をしていること、控訴人の耕作農地が本件農地を含めて二町四反余であるに反し池地徳馬の耕作面積は僅かに五反余にすぎないこと、前段認定のとおりであるから以上の事実を綜合して考うれば右池地徳馬の本件農地買収の請求は信義則に反するものと断することはできない。

されば被控訴人のなした本件農地の買収処分は正当であつて何等違法の点はなく右処分の取消を求める控訴人の請求は不当であつて到底棄却を免れない。

よつて右と同趣旨に出た原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条により之を棄却し、訴訟費用につき同法第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。(昭和二六年五月一九日高松高等裁判所)

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